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Posted by たまりば運営事務局 at

2012年05月09日

過疎の村からローマ法王献上米を実現した本

ローマ法王に米を食べさせた男』を読んだ。

著者の高野誠鮮さんは、科学ジャーナリスト、TVの企画・構成作家の経験を持つ。故郷、羽咋市の臨時職員から正職員に、僧籍も持つというお人。
石川県羽咋(はくい)市で、最も人口減少、疲弊が著しかった神子原地区の活性化および農産物のブランド化(年間予算は低額60万円)に携わり、慣例をすっとばし、マスコミを活用し、初めてのことにとまどい反対する住民を時に「あんたらが主役!」と巻き込む。

例えば「援農に学生」という企画では「女性大生2名。ただし酒が飲めること」(!)
新聞記者は来る、TVクルーは来る、受け入れた農家は酒盛りで盛りあがる、女子大生も「携帯はつながらない(平成17年当時)けれど、心がつながった」と感動。「絶対無理だ」と言っていたご近所さんも笑い声に惹かれて集まり「あんないい子なら俺らでも受け入れる」。

例えば県外からこの村に転入し、農業と「農家カフェ」をやりたかったご家族。
その場所は、街道からかなり離れた不便な場所なのに、高野さんはあえて「看板なし」を推奨。
その代わり、カフェのオープンを棚田雛かざりイベントに合わせてもらった。
イベント当日は、集落開闢以来の人出。しかしそこにはレストランも喫茶店もコンビニも自販機もなし。
そこで「村のレストランがありますから、どうぞご利用を」。この時、お店のチラシ配りには、前述の援農学生の後継学生たちも活躍。
「どこにも看板がないじゃないか」という人には「村の人たちがみんな知ってますから、教えてもらえます」
これは、前日にカフェで村内お披露目式をおこない、抜かりなく村民に協力要請済み。
看板のない農家カフェは、週末は予約で満席という盛況ぶり。加えて農作業帰りのご老人がふらりとコーヒーを飲みに訪れ観光客とも話がはずむという。

何といっても「前例がない」と心配(反対)するお役所の上つ方のご意向は「前例通りやってきて、今の疲弊した農村の姿じゃないか」と会議、稟議書は後出しで先ず行動する姿勢。これには「犯罪以外なら俺が責任とる」と言ってくれた直属上司の存在も大きく、ご本人も「これに応えるぞ!」。
持論の「人体政治学」、「人体経済学」という言葉からも、著者はきっと人間がお好きなお人なんだろうなーと推察。
だから、一過性のパッと儲けてパッと散るその場しのぎの企画ではなく、「お客も美味しいものを購入でき、楽しい地元とつながりができ、地元も多くの人と交流でき潤い、行政(JA)も喜ぶ」大岡政談『三方一両損』ならぬ『三方一両得』の地域活性が実現。

さて、題名にもある「ローマ法王」との関係とは。
「1年以内にブランド農産物を作る計画」で何をブランド化するか?ここに、全国のおいしいお米第3位に選ばれた羽咋のコシヒカリがあった。
これを作っていたのが、なんと羽咋市の限界集落、前述の「神子原地区」。気候に恵まれ、化学肥料による無理な増産をしないため本当においしい。なのに無名の米。
「神子原」を"the highlands where the son of God dwells"と英訳し"the son of God"といえば、イエス・キリスト。だから「ローマ法王ベネディクト16世に食べていただこう」という、すごい発想。
時すでに5月。ブランド化したい新米の収穫はもう半年先。
2か月待っても返事はなく、だったら「米」国大統領が米を食べない手はないだろうと米国大使館と交渉を始めた頃(これもすごい発想だけど)千代田区のローマ法王庁大使館から「法王様宛の手紙の件で、大使と大使代理がお話を聞きたい」との連絡が!
翌日の市長のスケジュールも全~部変更してもらい、一緒に新米を携えて東京へ。
大使から「人口500人の小さな村と人口800人足らずの小さな国の架け橋をさせていただきます」の約束と「ローマ法王へ最初に献上されたお米」のうたい文句使用も許可をもらった。
ここからの販売戦略もいろいろと面白いので、興味がおありの向きはぜひご一読を。

最後に本のそでにあった一文を引用。
『本当に「役に立つ」のが「役人」です。』
なるほど、然り。
読後感、痛快、爽快。おすすめの1冊。
  


  • Posted by エルダベリイ at 10:06Comments(0)読む